12月の審査で2段審査を受けられるO原さんの小論文です。
12月17日
二段審査にあたって
二段の受審にあたりまして、初段への昇段前後からの稽古を振り返り、気付きと思いを綴ります。
思い返しますと、初段への昇段は入門当初よりはるか遠くに描いていた大きな目標でした。昇段後しばらくの間は、その大きな節目に辿りついた達成感と安堵から、これといった先の目標を見つけることもなく、軽い燃え尽き症候群のような状態に浸っていたように思います。ただひたすら稽古に通って汗を流すだけの心地よい充電期間でもありました。その後どれくらいの間そうだったのか分かりませんが、日が経つにつれて徐々に新たな意欲も芽生えてきて、現在は、汗を流すことを楽しむなかで、有段者として恥ずかしくない技と立ち居振る舞いを身につけるために、それぞれに課題と思いを持って稽古に望んでいます。そんな折に二段受審の許可をいただき、あらためて気持ちを引き締めなおしたところです。 技についての最近の思いです。
高段者の方々に接すると自分の技がまったく通用しないことに戸惑っています。握られた手が上にあがらない、崩せない、投げれない、切り落とせない、等々、例をあげればきりがありませんが、いくら力を入れても動かない、まるで大きな石を一生懸命押しているような感覚に陥ることがあります。逆に自分は出合ったとたんに崩され、軽石のように捌かれています。例え小柄な方でも同じように重く、体格や腕力に比例しない不思議な力を感じています。
合気道は、流れるような動作で力なく相手を制する華麗さが前面にあらわれがちですが、その裏にこの重みが効いていることで、軸のぶれない本当に相手に通じる技となっていることを、最近になり強く意識するようになりました。この重みはどこからくるのか、何が違うのだろうかと、あれこれと考え、手捌き足捌きを試しては変えてを繰り返しているところで、目下の最大の関心事です。 細かな小手先の試みに目に見える進歩はなく述べるに値しませんが、ごく基本的なところで姿勢と目線による技の効きの違いを実感することがあります。背筋が伸びて目線を高く保てたときの相手への力の伝わり方は、前屈みで下を向いてしまったときとは明らかに違います。姿勢の良い状態というのは、呼吸や間合い、重心などがバランス良く整たれた状態であるためと思います。その呼吸、間合い、重心などが整った結果に姿勢があるのか、逆に姿勢を意識することでそれらのバランスが養われるものなのか、鶏が先か卵が先かのようなジレンマはありますが、技の重みをあれこれと考えているうちに基本の大切さをあらためて認識することになりました。一歩先を考えていたつもりが一周回って振り出しに戻ってしまったような気持ちです。とにかく近道を望まず、時間をかけて基本を積み重ねるしかない、ということだと受けとめています。
ひとつ知れば直ぐに結果が求められるスピード社会にいながら、合気道には基本を積み重ねる地道で時間のかかる世界があり、興味深いです。 次に立ち居振る舞いについてです。
稽古のなかで、相手への礼に込められた意味を教わったことがあります。合気道の稽古は「自分の技を磨くために相手の体を使わせてもらっている」ものであり、場合によっては体を傷めることもある受けに応じていただくことに感謝の気持ちを伝える、とのことでした。新鮮な響きで、深く印象に残っています。道徳観念の低下、自己中心的、思いやりに欠ける、など様々な言葉でコミュニケーション問題を耳にすることが多いなかで、忘れかけていた何かを思い出したような気持ちでした。稽古場や指導いただく方への感謝と敬意の念と同様に、礼に始まり礼に終わる武道の心得のひとつとして、大切に持ち続けたいです。大人の身でありながら日々の稽古を通じて貴重な情操教育を受けています。 また稽古前後の起居動作にも様々な教えが詰まっていることを感じます。上座への配慮に始まり、礼の順序、移動の際の周囲への配慮(失礼のないように人の背面をまわる)、脇差を意識した立ち方座り方(いつでも刀を抜けるように右足から立ち左足から座る)、太刀の置き方(相手に攻撃の意思がないことを伝えるために刃を自分に向けて置く)等々、言葉にするとどれもたやすい動作にすぎないかもしれませんが、あらゆるところに日本の文化と人の気持ちを察する配慮がうかがえ、今さらながら和の心を学ぶ貴重な機会になっています。今後も稽古場での小さな気付きを大切にして段位に恥じない振舞いを身につけていきたいと思っています。 ひたすら技の形を覚えることに夢中になっていた初段前に比べ、昇段後はしだいにその技の重みや効き、稽古場での立ち居振る舞いなどに意識が向くようになってきました。気持ちに余裕ができたのか、または少しは成長したのか、それまでとは違う視点で合気道に接することができています。先は果てしなく長そうですが、日々学ぶことが多く感謝しています。
これからも稽古を通じて心身ともに成長していきたいと思っていますので、師範をはじめ、先輩方、道友のみなさまに厳しく鍛えていただけることを期待しています。
以上
コメント入力はこちら