お知らせ

4段審査に合格しましたAさんの感想文です。

4月02日

                                      四段審査感想文


 この度、四段昇段審査を受ける機会をいただきました。もうすぐ大阪合氣塾での稽古は六年間になり、参段の昇段審査を受けてから三年半ぐらいになります。特にこの三年半を振り返り、合氣道と、私の合氣道との繋がりについて考えたことを述べさせていただきます。



 今年の三月には、昇段審査を受ける機会だけではなく、江坂の本部道場で初めて指導員として稽古する喜ばしい機会もありました。これは個人的に色々な意味が含まれるタイミングでした。


 私は日本に来て八年以上経ちました。去年、大学の博士課程を修了して、高校で少し教えはじめ、今年の四月から大学でも教えるようになりました。ルーマニアで永く学生の生活を送っていた私は、勉強のために来日し、また永い間の学生の生活を送ってきました。漸くそれが終わって、少し躊躇しながら、習う側だけではなく教える側でも活動するようになりました。


 参段へ昇段されるまでは自分の技をより美しく、より強くさせることをメインに稽古していた私は、この三年半の間では他の人にどう教えるかということも少しずつ意識するようになりました。それは何か機会があったとは言えず、割と自然にそのような気持ちが湧き上がってきました。須磨師範の技を見る間に、もし私がこれを他の人に見せるならどうするかとかを時々思いました。


 合氣道では呼吸方、四方投げ、一教、入身投げという四つの基本技があります。でも、この四つの技は実際にとても難しく、これらさえできたらどんな技もできる、とたまに思うようになります。そして、もしいつか合氣道を教えるなら、この四つの技をちゃんと理解しないと。体の連動、力の抜き方、中心の意識などの問題を、師範と他の指導者の方の説明を聞きながら、一つ一つクリアすることは、この三年半の間に自分に決めた課題だったと言っても大雑把ではないかもしれません。


 参段昇段審査の時に提出させていただいた小論文のなかでは「磨き合い」という言葉を用いました。自分なりの勝手な解釈ながら、それは、どんな相手にも自分の体と心の磨きになる点を見つけて一緒に成長するという意味でしたが、これからも自分の合氣道のモチーフにしたいです。


 合氣道の世界では「合氣道には試合はない」という言葉をよく聞きます。それを〈僕らがやってる武道は他の武道より素晴らしいよ〉という気持ちで少し誇らしげに言う人もいるだろうと思いますが、私は、合氣道に試合がないということをどう扱えばいいのか、それに何がいいのかが、永い間、実は解らなかったのです。


 テレビでメダルを取れなくてファンの期待に添えなかったことを嘆く選手達の姿をよく見ます。その毎回に、それぐらいのレベルに至るまでは練習して凄く頑張っていたことを尊敬しながら、その嘆きに個人的にはなんらかの違和感も抱いてしまいます。
 また、番組と人の名前は覚えていませんが、二年ぐらい(だったっけ?)前にテレビで不登校の経験を経ていた大人の人の話を聞きました。その人は、学生の時代、勉強に非常に頑張っていたのですが、試験へ向かう途中に段々精神的に疲れてきて、その教室の前の席から後ろへ次々とランクを失ってきました。そして、ある日に、自分が座っていた机の後ろにエアーで線を引いた先生に「この線の後ろになると、あなたに未来がない」と非常に厳しい言葉を言われました。その番組の話を聞いたときに、「合氣道に試合はない」という言葉を思い出しました。


 私たちは、似たような教育を受けているので、大人になっても、線の後ろにならないように、いつまでも他の人と争います。今回は自分でなければ、誰かが落ちているはずです。今日は合格して笑った分に背後に泣く誰かがいるのです。でも、合氣道では誰も落ることがありません。いつまでも相手と磨き合いながら、できる限りの力を尽くして進んでいくのです。その意味で合氣道に教育的な要素が大いにあり、合氣道が、数学や国語などのように、一つの科目として、私たちの教育制度に導入されたらいいなと思える程です。そのため、近年で道主が発表された本の中に「合気道は、対立した者を腕力や技でおさえつけるのではなく、相手と和することによってすべてを包み込む。敵そのものをなくしてしまう。一切の対立を超越した近代武道として完成したのです。合気道の戦後の発展の鍵はここにこそある」(注①)と書いてある箇所を驚きながらとても興味深く読みました。


 そして、合氣道をやりはじめて十五年ぐらいになる今更ですが、私は、そもそも興味を持っていた空手道や居合道などの武道ではなく、結局合氣道を選んだのは、このような競争のない境地が欲しかったからではないかとも思います。


 須磨師範、指導者の方、審査を見に来てくださった方、普段の稽古で一緒に練習してくださっている皆様、この場を借りて、感謝の気持ちをお伝えします。今後ともよろしくお願いいたします。

 

注① 植芝守央「合気道 稽古とこころ―現代に生きる調和の武道」(内外出版社、二〇一八年三月三〇日、一二七頁)。

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